幾多の因子の多数にある事はもちろんである。しかし以上の考察はこれら因子中の最も重要なるものに関したもので、これからの結論がだいたいにおいて事実とあまりに懸隔したものではないという事も許容されるだろうと信じる。
私はこのような考えを正す目的で、時々|最寄《もよ》りの停留所に立って、懐中時計を手にしては、そこを通過する電車のトランシットを測ってみた。その一例として去る六月十九日の晩、神保町《じんぼうちょう》の停留所近くで八時ごろから数十分間|巣鴨《すがも》三田《みた》間を往復する電車について行なった観測の結果を次に掲げてみよう。表中の時刻は、同停留所から南へ一町ぐらいの一定点を通過する時を読んだものである。時間の下に付した符号は乗客の多少を示すもので、これはほんの見当だけのものである。○はいわゆる普通の満員、△は座席はほぼ満員だがつり皮は大部分すいている程度、×は空席の多いいわゆるガラアキのものである。◎は極端な満員、××は二三人ぐらいしかいないものを示す。
[#ここに表組入る、別ファイル(densyanokonzatsu_table.txt)参照]
この表で見ると、たとえば五分ごとに通る車数はかなりの変化があるにかかわらず、その平均数は北行南行ともにほぼ同様で、約二分半に一台の割合である。しかし実際の個々の時間間隔は、南行の最初における十一分三秒プラスという極端から、わずか十二秒という短い極端まで変化している。しかして多少の除外例はあるにしても、だいたいにおいて長い間隔の後には比較的混雑した車が来る事、短い間隔の後にはすいた車が来る事がわかるだろう。
今これら各種の間隔の頻度《フリクエンシー》について統計してみると次のとおりである。
[#ここから3字下げ]
四分以上 4回 │ 二分以下 23回
三分以上 9回 │ 一分以下 11回
二分以上 15回 │ 四十秒以下 5回
[#ここで字下げ終わり]
これでわかるように、間隔の回数から言うと、長い間隔の数はいったいに少なくて、短いものが多い。全体三十八間隔の中で、四分以上のものは四回、すなわち全体の約一割ぐらいのものである。しかしここで誤解してならない事は、乗客がこれらの長短間隔のいずれに遭遇する機会《チャンス》が多いかという問題となると、これは別物になるのである。この点を明
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