せると、数学ほど簡単|明瞭《めいりょう》なものはなくて、だれでも正直に正当にやりさえすれば、必ずできるにきまっているものだというのである。教科書の問題を解くのでも、おみくじかなんかを引くように、できるもできないのも運次第のものででもあるかのように思っていた自分のような生徒たちには、先生のこの説は実に驚くべき天啓であり福音であった。なるほど少なくも書物にあるほどの問題なら、その書物で教えられた筋道どおり正直にやれば必ずできるのであった。そういうことを発見して驚いたものである。
 自分は中学五年時代には将来物理をやりたいと思ってひとりできめていた。中学校の先生の中には、ぜひ心理学をやれとすすめる先生もあった。しかし父がいろいろの理由から工科をやることを主張したので、そのころ前途有望とされていた造船学をやることになり、自分もそのつもりになって高等学校へはいった。ネーヴァル・アンニュアルなどを取り寄せていろいろな軍艦の型を覚えたり、水雷艇や魚形水雷の構造を研究したりしていたのであるが、一方ではどうにも製図というものにさっぱり興味がないのと、また一方では田丸先生の物理の講義を聞き、実験を見せられ
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