を頭においてだんだんに上記のいろいろの弦楽器の名前をローマ字書きに直して平面的あるいは立体的に並列させてみるとこれらはほとんど連続的な一つの系列を作る。これはたぶん偶然であるかもしれない。しかし万一そうでないかもしれない。かりに偶然でないとしたところでそれはこれらの名が擬音的であるために生ずる自然の一致であるか、あるいは伝統因果的関係から来るのか、たぶん両方であるか、これはなかなか容易にはわかりにくい問題であろう。
 笛の名でもニューギニアのムベイ。ニュージーランドのプー。マレイのプアン。ミンダナオのプアラ。マルケサスのプイフ。ビルマのプルエ。ピルウェ。スラヴのフバ。フィンランドのフィル。ラテンのピパ。などみんな擬音らしくもありまた関係があるらしくもある。オボーなどもこれと従兄弟《いとこ》である。
 おもしろい事には全然ちがった楽器の名前が同じような音から成り立っている例のかなり多いことである。たとえば笛のピパに対して弦楽器のピパすなわちビワがあり、弦楽器のタンブールに対して太鼓のタンブールがあるような類である。
 以上はただまるで夢のような話で結局これだけからはなんの結論も出て来ない
前へ 次へ
全9ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング