よって湯げの立ち上がる様子がちがうので、その湯げの立ち方で温度のおおよその見当がつく。これには対流による渦動《かどう》の問題がある。また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から外に傘状《からかさじょう》に広がる、そうしていつまでたっても茶わんには水が満たされない。これについても流体運動の一問題として追究すべき事がらはいくらもある。そうして、これらの問題はいずれも工学上のみならず気象学や海洋学上の重要な諸問題とかなり密接につながっていることはおそらく説明するまでもないことであろう。それにもかかわらず、これら眼前の問題に対していくらかでも知識を得たいと思ってライブラリーを渉猟しても満足な答解を与えてくれるものはまれである。そうかと言ってみずからこれらの多くの問題のどれもに手を着けることは到底不可能である。それで私が今本誌の貴重な紙面をかりてここにこれらの問題を提出することによって、万一にも、好学な読者のだれかがこの中の一つでもを取り
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