二科狂想行進曲
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)葱《ねぎ》大根
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ちょっと一|刷毛《はけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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一
古い伝統の床板を踏み抜いて、落ち込んだやっぱり中古の伝統長屋。今度の借家は少し安普請で、家具は仕入れ。ボールの机にブリキの時計、時計はいつでも三十度くらい傾いて、そして二十五時のところで止っている。いつまでも止っている。今度の大地震の来る日までは。
二
大掃除の午後の路地の交互点、こわれたおもちゃに葱《ねぎ》大根の尻尾《しっぽ》、空瓶空ボールの交響楽、マルクス、ムッソリニの赤ん坊の夢を買わないか。汚いものは美しく、美しいものはきたなく。のっぺりの中へ少しこまこまと金銀紫銅のモール。昼食か、そこへおきな。
三
黄は睨《にら》み朱は吼《ほ》える、プルシアンブルーはうめく。鏝《こて》で勢いよくきゅうとなでて、ちりちりぱっとくくりをつけて、パイプを
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