思う。
未来派の絵というと、ギタアが出て来るのは、あれはどういう理由によるのだろうか。他にも同等もしくは以上に適当な題材はいくらでもあるだろうが。
中川|紀元《きげん》氏の裸体画を見ていると、何だかある甲虫を聯想するが、何だという事が、はっきり思い出せない。この聯想はあるいは主としてあの女の右の足から来るのかもしれない。この絵などが、自分にはあまり楽しめない方の部類に属する。
展覧会によっては、殊に日本画の展覧会などでは、とても二目《ふため》と見る気のしない絵が随分あるが、二科会などでは、そんなのはあまり多くは出会わないようである。これは世辞ではない。
展覧会の評というと、徹底的に賞めちぎるか、扱《こ》き下ろすかどっちかにしないと、体をなさないかもしれないが、これは批評でも何でもないのだから、こんな甘い、だらしのないものになっても致し方がない。[#地から1字上げ](大正十三年十月『明星』)
底本:「寺田寅彦全集 第八巻」岩波書店
1997(平成9)年7月7日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
1985(昭和60)年
初出:「明星」
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