読書の今昔
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)岐阜提灯《ぎふちょうちん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)簡単|明瞭《めいりょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和七年一月、東京日日新聞)
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 現代では書籍というものは見ようによっては一つの商品である。それは岐阜提灯《ぎふちょうちん》や絹ハンケチが商品であると同じような意味において商品である。その一つの証拠にはどこのデパートメント・ストアーでもちゃんと書籍部というのが設けられている。そうして大部分はよく売れそうな書物を並べてあるであろうが、中にはまたおそらくめったには売れそうもない立派な書籍も陳列されている。それはちょうど手ぬぐい浴衣《ゆかた》もあればつづれ錦《にしき》の丸帯もあると同様なわけであって、各種階級の購買者の需要を満足するようにそれぞれの生産者によって企図され製作されて出現し陳列されているに相違ない。
 商品として見た書籍はいかなる種類の商品に属するか。米、味噌《みそ》、茶わん、箸《はし》、飯櫃《めしびつ
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