現象ではないかという気がする。このような特異の現象の生ずるにはそれだけの特異な理由がなければならない。また、こうなるまでには、こうなって来た歴史があるであろうが、それは自分にはわからない。
しかしこの現象から、日本人は世界じゅうで最もはなはだしく書籍を尊重し愛好する国民であるということを推論することはできない。なんとなれば、この現象からむしろ反対の結論に近いものを抽出することも不可能ではないからである。すなわち、もしもすべての人が絶対必要として争って購買するものならば何も高い広告料を払って大新聞の第一ページの大半を占有する必要は少しもないであろう。反対に広告などはいっさいせずに秘密にしておいても、人々はそれからそれと聞き伝えて、どうかして一本を手に入れたいと思う人がおのずから門前に市をなすことあたかも職業紹介所の門前のごとくなるであろう。
商品の新聞広告で最も広大な面積を占有するものは書籍と化粧品と売薬である。この簡単|明瞭《めいりょう》なる一つの事実は何を意味するか。これはこの三つのものが、商品としての本質上ある共通な性質をもっていることを示すものと考えられる。
その第一の共通
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