と小売部と連絡がないためか、店の陳列棚《ちんれつだな》にそれが現存していても注文した分が着荷しなければ送ってくれなかったりする。頼んだつもりのが頼んだことになっていなかったりすることもある。雑誌のバックナンバーなど注文すると大概絶版だと断わって来るがライプチヒの本屋に頼むとたいていはじきに捜し出してくれるのである。天下の愚書でも売れる本はいつでも在庫品があり、売れない本はめったにない。これも書物が何々株式会社の「商品」であるとすればもとより当然のことである。それで自然に起こる要求は、そういう商品としてでない書籍の供給所を国家政府で経営して大概の本がいつでもすぐに手に入れられるようにしてもらうことはできないかということである。もっともこうなると自然に書物の種類にある限定を生じるに相違ないが、それでもかまわないと思うのである。少なくも科学や技術方面の書物だけでもさし当たってそうしてほしいと思う。国立図書館といったようなものと少なくも同等な機関として必要なものでありはしないか、こういう虫のいい空想も起こるくらいに不便を感じる場合が多いのである。
若いおそらく新参らしい店員にある書物があるか
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