東上記
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)欄干に倚《よ》る

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柿の実|撒砂《まきすな》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)漣※[#「さんずい+猗」、第3水準1−87−6]《れんい》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ゆら/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 八月二十六日床を出でて先ず欄干に倚《よ》る。空よく晴れて朝風やゝ肌寒く露の小萩のみだれを吹いて葉鶏頭《はげいとう》の色鮮やかに穂先おおかた黄ばみたる田面《たのも》を見渡す。薄霧《うすぎり》北の山の根に消えやらず、柿の実|撒砂《まきすな》にかちりと音して宿夢《しゅくむ》拭うがごとくにさめたり。しばらくの別れを握手に告ぐる妻が鬢《びん》の後《おく》れ毛《げ》に風ゆらぎて蚊帳《かや》の裾ゆら/\と秋も早や立つめり。台所に杯盤《はいばん》の音、戸口に見送りの人声、はや出立《いでた》たんと吸物
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