われがお手伝いをして予備実験をやった。なんでも大きなラッパのようなものをこしらえて、それをあの池の水中に沈め、別の所へ、小さなボイラーを沈めたのを鎚《つち》でたたいて、その音を聞くような事をやったように覚えている。第二次の実験は隅田川《すみだがわ》の艇庫前へ持って行ってやったのだが、その時に仲間の一人が、ボイラーをかついで桟橋《さんばし》から水中に墜落する場面もあって、忘れ難い思い出の種になっている。
 墜落では一つの思い出がある。三年生の某々二君と、池の水温分布を測った事がある。池の中島にガルバをすえて、小船でサーモジャンクションを引っぱりあるいては、時々の水温の水平ならびに垂直分布を測った。冬の最中のある日に観測中に某君が誤って水中に落ち、そのために病気を起こした事もあった。水温の分布はあまり珍しい事もなかったが、深い泥《どろ》の中の分布を測ったのは、いくらか珍しいほうかもしれない。
 この観測に使った小船は、今は理学部の北玄関の壁に立てかけて乾燥状態にある。もとは大きな盥《たらい》を浮かべて船の代わりにしたものであるが、いろいろの観測に必要だというので、水産講習所へ頼んで造っても
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