らったものである。池につないでおくと、たぶん職人か土方だろうが、よくいたずらをして困るので、ああして引き上げておくのである。ナンキン錠をいくらつけ換えても、すぐ打ちこわされるので、根気負けがしたのである。無論土方か職人のしわざに相違ない。
 池の周囲の磁力測量、もっとも伏角だけではあるが、数年来つづけてやって来て、材料はかなりたまっている。地形によって説明されるような偏差がかなり著しく出ていておもしろいから、いつかまとめておきたいと思いながらそのままになっている。池の断面の形をした鉄板の片を電磁石の間において、それに鉄くずを振りかけて、その磁力線の分布を、実地と比較した学生もあった。
 池の氷が張りつめた上に、雪が積もると、その表面におもしろい紋のような模様ができる。これはドイツで 〔Dampflo:cher〕 と称するものだそうで、この成因はあまり明らかでないらしい。田中阿歌麿《たなかあかまろ》氏著、「諏訪湖《すわこ》の研究」上編七一六ページにこれに関する記事と、写真がある。数年前の「ローマ字世界」にも田丸《たまる》先生が、この池のものについておかきになったのが出ている。先生がたのお
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