やめになったと見える。もしほんとうに、あすこに、大きなブルフログが繁殖して、大きな声でも上げているのだと、少なくも何事かを考えさせられそうである。場所がらだけに、少なくも新聞の青鉛筆子や漫画子の材料にはなっていたかもしれない。
 池のみぎわでおたまじゃくしの行列を見る事もある。あの行列の道筋に何か方則があるだろうか、水流と何か関係があるだろうか。そんな事をだれかと議論した事があった。もちろんなんの結論も得られなかった。
 冗談はさておいて、この池が、これまでに、いろいろのまじめな研究の材料を供給している事も、数え上げれば、少なくないようである。
 池中に棲息《せいそく》するある生物の研究を、学位論文の題目とした先輩が、少なくも二人はあるそうである。
 田中館《たなかだて》先生が電流による水道鉄管の腐蝕《ふしょく》に関する研究をされた時、やはりこの池の水中でいろいろの実験をやられたように聞いている。その時に使われた鉄管の標本が、まだ保存されているはずである。
 月島丸《つきしままる》が沈没して、その捜索が問題となった時に、中村《なかむら》先生がいろいろの考案をされて、当時学生であったわれ
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