にはまず第一に三角点の位置を選定する選点作業が必要である。深山の峰から峰と一つ一つ登って行ってはそこから百キロ以内の他の高峰との見透しを調べて歩くのである。一点を決定するのに平均二週間はかかる。そうして三角点の配布が決定したら、次にはそこに櫓《やぐら》を組む造標作業がある。場所によっては遠い下のほうから材木を引き上げなければならず、また見透しの邪魔になる樹木を切らなければならない。これにも一点に約二週間はかかる。
櫓《やぐら》ができたら少なくも一年は放置して構造の狂いを充分に落ち着かせてからいよいよ観測にかかる。一点における観測作業に天気がよくても二週間ぐらいはかかる。技師一人技手一人と測量人夫六名ないし十名ぐらいの一行でテント生活をする。場所によっては水くみだけでもなかなかの大仕事である。食料は米味噌《こめみそ》、そのほかに若布《わかめ》切り干し塩ざかななどはぜいたくなほうで、罐詰《かんづめ》などはほとんど持たない。野菜類は現場で得られるものは利用する。カラフトではいろいろな植物を片端から試験的に食ってみた人もある。渓流《けいりゅう》で小ざかなをつかみ取りにしたり、野獣を射止めて思
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