知と疑い
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)燭《しょく》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|欠レ[#「レ」は返り点]知《しるをかく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](大正四年ごろ)

 [#…]:返り点
 (例)欠[#レ]知
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 物理学は他の科学と同様に知の学であって同時にまた疑いの学である。疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う。暗夜に燭《しょく》をとって歩む一歩を進むれば明は一歩を進め暗もまた一歩を進める。しかして暗は無限大であって明は有限である。暗はいっさいであって明は微分である。悲観する人はここに至って自棄する。微分を知っていっさいを知らざれば知るもなんのかいあらんやと言って学問をあざけり学者をののしる。
 人間とは一つの微分である。しかし人知のきわめうる微分は人間にとっては無限大なるものである。一塊の遊星は宇宙の微分子であると同様に人間はその遊星の一個の上の微分子である。これは大きさだけの事であるが知識の dimensions はこれにとどまらぬ。空間に対して無限である
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