追憶の医師達
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)朧気《おぼろげ》な追憶の霧の中に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)記念すべき諸|国手《こくしゅ》の面影も
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)「脳膜※[#「火+欣」、第3水準1−87−48]衝《のうまくきんしょう》
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子供の時分に世話になった医師が幾人かあった。それがもうみんなとうの昔に故人になったしまって、それらの記念すべき諸|国手《こくしゅ》の面影も今ではもう朧気《おぼろげ》な追憶の霧の中に消えかかっている。
小学時代にかかりつけの家庭医は岡村先生という当時でももう相当な老人であった。頭髪は昔の徳川時代の医者のような総髪を、絵にある由井正雪《ゆいしょうせつ》のようにオールバックに後方へなで下ろしていた。いつも黒紋付に、歩くときゅうきゅう音のする仙台平《せんだいひら》の袴姿であったが、この人は人の家の玄関を案内を乞わずに黙っていきなりつかつか這入《はい》って来るとい
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