て喰わせろと云った。その処方通りにしたら数日にしてこの厄介な奇病もけろりと全快した、というのである。この患者は生れてその日までまだ米の飯というものを喰ったことがなかったという話であった。
 小松の若先生でも楠先生でも、もし無事だったらまだ生きておられてもいい年輩であったが、二人とも壮年で亡くなられた。そうして大人になるまで生きるかどうかと気遣われた自分が、これらの先生方のおかげでどうにか生き延びて、そうしてこれらの人達よりも永生きをしているわけである。[#地から1字上げ](昭和十年一月『実験治療』)



底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店
   1996(平成8)年12月5日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2004年3月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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