た事で、これだけが荒涼な室の中に著しい異彩を放っていた。それからもう一つ、描きかけの自画像で八号か十号くらいだったかと思う。一体に青味の勝った暗い絵で、顔が画面一杯に大きくかいてあった。同行の中村先生があとでレンブラント張りだと評された事も覚えている。
その時までに見た中村氏の絵を頭においていた自分は、話のついでに「ルノアルがお好きですか」と聞いてみた。そうしたら、「ルノアルも好きだが、レンブラントが一番面白いようです」と言われたようであった。
その日の中村氏は白地の勝った絣《かすり》を着ていたような気がする。穏やかで、パッシイヴで、そしてどこか涼しい感じのする人であった。
中村氏が田中舘先生の御宅へ、最初のスケッチをしに来られた時には、自分も中村先生と一緒に見に行った。八つ切りくらいのスケッチブックへ鉛筆で簡単なスケッチをしたが、それは普通の意味の似顔としてはあまりよく似てはいなかった。その時自分の感じた事は、その鉛筆画が普通のアカデミックなデッサンとはどこか行き方が違っているという事であった。
いよいよ本式にカンヴァスに筆を取り始めてからも、二、三度見に行った。そしてその描
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