かっぱ》の類)と相撲を取ってのされたという話もある。上記のシバテンはまた夜釣りの人の魚籠《びく》の中味を盗むこともあるので、とにかく天使とはだいぶ格式が違うが、しかし山野の間に人間の形をした非人間がいて、それが人間に相撲をいどむという考えだけは一致している。
自分たちの少年時代にはもう文明の光にけおされてこのシバテンどもは人里から姿を隠してしまっていたが、しかし小学校生徒の仲間にはどこかこのシバテンの風格を備えた自然児の悪太郎はたくさんにいて、校庭や道ばたの草原などでよく相撲をとっていた。そうして着物をほころばせたり向こう脛《ずね》をすりむいては家へ帰ってオナン(おふくろの方言)にしかられていたようである。自分なども一度学校の玄関の土間のたたきに投げ倒されて後頭部を打って危うく脳震盪《のうしんとう》を起こしかけたことがあった。
三
高等小学校時代の同窓に「緋縅《ひおどし》」というあだ名をもった偉大な体躯《たいく》の怪童がいた。今なら「甲状腺」などという異名がつけられるはずのが、当時の田舎力士の大男の名をもらっていたわけである。しかし相撲は上手でなく成績もあまりよくなか
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