じんあい》」の意味があるからやはり地べたにころがしっこをするのであったかもしれない。そうして相撲の結果として足をくじいてびっこを引くこともあったらしい。それから、これは全く偶然ではあろうが、この同じヘブライ語が「撲」の漢音「ボク」に通ずるのが妙である。一方で和音「すまふ」はこれは相撲の音から転じたものであるに相違ない。bはmに、kはhに変わりやすいからである。ついでにもう一歩脱線すると、相撲の元祖と言われる野見《のみの》宿禰《すくね》の「スクネ」とよく似たヘブライ語の「ズケヌ」は「長老」の意味があるのである。
このヤコブと天使との相撲の話は、私にはまた子供の時分に郷里の高知でよく聞かされた怪談を思い出させる。
昔の土佐には田野の間に「シバテン」と称する怪物がいた。たぶん「柴天狗《しばてんぐ》」すなわち木の葉天狗の意味かと想像される。夜中に田んぼ道を歩いているとどこからともなく小さな子供がやって来て、「おじさん、相撲取ろう」といどむ。これに応じてうっかり相手になると、それが子供に似合わず非常な怪力があって結局ひどい目にのされてしまう、というのである。これと並行してまたエンコウ(河童《
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