ほどに異端視されなくてもすむかもしれないと思われる。「囲碁」や「能楽」のように西洋人に先鞭《せんべん》をつけられないうちにだれか早く相撲の物理学や生理学に手をつけたらどうかと思うのである。
相撲の歴史については相当いろいろな文献があると見えて新聞雑誌でそれに関する記事をしばしば見かけるようであるが、しかしそれはたいていいつもお定まりの虫食い本を通して見た縁起沿革ばかりでどこまでがほんとうでどこからがうそかわからないもののような気がする。この歴史についてもも少し違った見地からの新しい研究がほしい。たとえば世界各地方の過去から現在までに行なわれた類似の角力戯との比較でもしてみたら存外おもしろい結果が得られはしないかと思われる。
二
少し唐突な話ではあるが、旧約聖書にたしかヤコブが天使と相撲を取った話がある。
その相手の天使からイスラエルという名前をもらって、そうしてびっこを引きながら歩いて行ったというくだりがあったようである。その「相撲」がいったいどんなふうの相撲であったかさっぱりわからない。しかし、ヘブライ語の相撲という言葉の根幹を成す「アバク」という語は本来「塵埃《
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