人魂の一つの場合
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)信州《しんしゅう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|間《けん》ほど
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和八年十一月、帝国大学新聞)
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ことしの夏、信州《しんしゅう》のある温泉宿の離れに泊まっていたある夜の事である。池を隔てた本館前の広場で盆踊りが行なわれて、それがまさにたけなわなころ、私の二人の子供がベランダの籐椅子《とういす》に腰かけて、池の向こうの植え込みのすきから見える踊りの輪の運動を注視していた。ベランダの天井の電燈は消えていたが上がり口の両側の柱におのおの一つずつの軒燈がともり、対岸にはもちろん多数の電燈が並んでいた。
突然二十一歳になるAが「今火の玉が飛んだ」といいだすと、十九歳になるBが「私も見た」といってその現象の客観的実在性を証明するのであった。
そこで二人の証言から互いに一致する諸点を総合してみると、だいたい次のようなものである。
ベランダから池の向こうの踊り場を正視していたときに、正
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