疲労してしまうのが落ちだ。……」(小泉八雲《こいずみやくも》の手紙。野口米次郎《のぐちよねじろう》、『小泉八雲伝』より)
 科学の研究には設備と費用がかかるから、どうも孤独ではできない。しかしこのヘルンのつむじ曲がりの言葉の中には味わうべき何かはある。彼の言葉を少しばかり参考すると日本の科学はもう少し進みはしないか。

   三

「私は言わば偶然にセリストになった。事によっては、ヴァイオリニストにもまたトロンボニストにもなったかもしれない。音楽が第一に来るもので特別な楽器ではない。しかし自分のメディアムとしてある特別な楽器を選んだ以上はできるだけ完全にそれを使用しなければならない。……私はあらゆるものから学んだ、ヴァイオリニストからも、唱歌者からも、器楽者からも。私の聞いたすべての音楽は私のセロに発想の上に新しい道を開いた。私は名手から学ぶと同様に下手からも学んだ。それはどうしてはいけないかを学んだのである。私は私の生徒からも多くを学んだ。」(パブロ・カザルスの言葉。マルテンスの『ストリングマスタリー』より拙訳)
 スペシアリストのほんとうの意義、その心得を説き尽くしたものと思う。ス
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