人の言葉――自分の言葉
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)古《いにしえ》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)わが自身|工夫《くふう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)物理[#「物理」に白丸傍点]
−−

   一

「おおかた古《いにしえ》を考うる事、さらに一人二人の力もてことごとく明らめ尽くすべくもあらず。またよき人の説ならんからに多くの中には誤りもなどかなからん。必ずわろき事もまじらではえあらず。そのおのが心には、今は古の心ことごとく明らかなり、これをおきてはあるべくもあらずと思い定めたることも、思いのほかにまた人の異なるよき考えもいで来るわざなり。あまたの手を経るまにまに、さきざきの考えの上をなおよく考えきわむるからに、次々にくわしくなりもて行くわざなれば、師の説なりとて必ずなずみ守るべきにもあらず。よきあしきをいわず、ひたぶるに古きを守るは、学問の道には、いうかいなきわざなり。」(本居宣長《もとおりのりなが》『玉かつま』)
 この初めの「古《いにしえ》を考うる事」というのを「物理学上のいか
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