平洋岸に顕著な潮汐《ちょうせき》の現象を表徴する記事もある。
島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あるいはまた河口における三角州の出現などを連想させるものがある。
なかんずく速須佐之男命《はやすさのおのみこと》に関する記事の中には火山現象を如実に連想させるものがはなはだ多い。たとえば「その泣きたもうさまは、青山を枯山《からやま》なす泣き枯らし、河海《うみかわ》はことごとに泣き乾《ほ》しき」というのは、何より適切に噴火のために草木が枯死し河海《うみかわ》が降灰のために埋められることを連想させる。噴火を地神の慟哭《どうこく》と見るのは適切な譬喩《ひゆ》であると言わなければなるまい。「すなわち天《あめ》にまい上ります時に、山川ことごとに動《とよ》み、国土《くにつち》皆|震《ゆ》りき」とあるのも、普通の地震よりもむしろ特に火山性地震を思わせる。「勝ちさびに天照大御神《あまてらすおおみかみ》の営田《みつくだ》の畔《あ》離《はな》ち溝《みぞ》埋《う》め、また大嘗《おおにえ》きこし
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