森の絵
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)暖かい縁《えん》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)あくる日|銭《ぜに》を貰うて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)木の空にはご[#「はご」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)散り残った枯れ/\の紅葉が
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暖かい縁《えん》に背を丸くして横になる。小枝の先に散り残った枯れ/\の紅葉が目に見えぬ風にふるえ、時に蠅のような小さい虫が小春の日光を浴びて垣根の日陰を斜めに閃く。眩しくなった眼を室内へ移して鴨居《かもい》を見ると、ここにも初冬の「森の絵」の額《がく》が薄ら寒く懸っている。
中景の右の方は樫《かし》か何かの森で、灰色をした逞《たくま》しい大きな幹はスクスクと立ち並んで次第に暗い奥の方へつづく。隙間もない茂りの緑は霜にややさびて得《え》も云われぬ色彩が梢から梢へと柔らかに移り変っている。コバルトの空には玉子色の綿雲が流れて、遠景の広野の果の丘陵に紫の影を落す。森のはずれから近景へかけて石ころの多い小径
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