千人針
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)千人針《せんにんばり》の寄進が行われ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|助太刀《すけだち》に出かける
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和七年四月『セルパン』)
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去年の暮から春へかけて、欠食児童のための女学生募金や、メガフォン入りの男学生の出征兵士や軍馬のための募金が流行したが、これらはいつの間にか下火になった。そうしてこの頃では到る処の街頭で千人針《せんにんばり》の寄進が行われている。これは男子には関係のないだけに、街頭は街頭でも、何となくしめやかにしとやかに行われている。それだけに救世軍の鍋などとはよほどちがった感じを傍観者に与えるものである。如何にも兵隊さんの細君《さいくん》らしい人などが赤ん坊を負ぶっているのに針を通してやっている人がやはり同じ階級らしいおばさんや娘さんらしい人であったりすると実に物事が自然で着実でどうにも悪い心持のしようがない。そうした事柄が如何にも純粋に日本的だという気がするのである。迷信だと
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