も消えそうもない、実用的には申し分のなさそうな品である。それだけに、どうも座敷用または書卓用としては、あまりに殺風景なような気がした。
これは台所用としてともかくも一つ求める事にした。
蝋燭《ろうそく》にホヤをはめた燭台《しょくだい》や手燭《てしょく》もあったが、これは明るさが不充分なばかりでなく、何となく一時の間に合せの燈火だというような気がする。それにランプの焔はどこかしっかりした底力をもっているのに反して、蝋燭の焔は云わば根のない浮草のように果敢《はか》ない弱い感じがある。その上にだんだんに燃え縮まって行くという自覚は何となく私を落着かせない。私は蝋燭の光の下で落着いて仕事に没頭する気にはなれないように思う。
しかし何かの場合の臨時の用にもと思ってこれも一つ買う事にはした。
肝心の石油ランプはなかなか見付からなかった。粗末なのでよければ田舎へ行けばあるだろうとおもっていたが、いよいよあたって見ると、都に近い田舎で電燈のない処は今時もうどこにもなかった。従ってそういう淋しい村の雑貨店でも、神田本郷の店屋と全く同様な反応しか得られなかった。
だんだんに意外と当惑の心持が増す
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