静岡地震被害見学記
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)久能山《くのうざん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)南東|久能山《くのうざん》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和十年九月『婦人之友』)
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昭和十年七月十一日午後五時二十五分頃、本州中部地方関東地方から近畿地方東半部へかけてかなりな地震が感ぜられた。静岡の南東|久能山《くのうざん》の麓をめぐる二、三の村落や清水市の一部では相当|潰家《つぶれや》もあり人死《ひとじに》もあった。しかし破壊的地震としては極めて局部的なものであって、先達《せんだっ》ての台湾地震などとは比較にならないほど小規模なものであった。
新聞では例によって話が大きく伝えられたようである。新聞編輯者は事実の客観的真相を忠実に伝えるというよりも読者のために「感じを出す」ことの方により多く熱心である。それで自然損害の一番ひどい局部だけを捜し歩いて、その写真を大きく紙面一杯に並べ立てるから、読者の受ける印象ではあたかも静岡全市並びに附近一帯が全部丸潰
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