青磁のモンタージュ
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黒楽《くろらく》の陶器

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)豪健|闊達《かったつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和六年十二月、雑味)
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「黒色のほがらかさ」ともいうものの象徴が黒楽《くろらく》の陶器だとすると、「緑色の憂愁」のシンボルはさしむき青磁であろう。前者の豪健|闊達《かったつ》に対して後者にはどこか女性的なセンチメンタリズムのにおいがある。それでたぶん、年じゅう胃が悪くて時々神経衰弱に見舞われる自分のような人間には楽焼きの明るさも恋しいがまた同時に青磁にも自然の同情があるのかもしれない。
 故|夏目漱石《なつめそうせき》先生も青磁の好きな人間の仲間であったが、先生も胃が悪くて神経衰弱であったのである。先生は青磁の鉢《はち》に羊羹《ようかん》を盛った色彩の感じを賞したことがあったように記憶する。
 青磁の皿《さら》にまっかなまぐろのさしみとまっ白なおろし大根を盛ったモンタージュはちょっと美しいものの一つである
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