青衣童女像
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)神保町《じんぼうちょう》を歩いていたら
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+眉」、第3水準1−85−86]
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木枯らしの夜おそく神保町《じんぼうちょう》を歩いていたら、版画と額縁を並べた露店の片すみに立てかけた一枚の彩色石版《クロモリソグラフ》が目についた。青衣の西洋少女が合掌して上目に聖母像を見守る半身像である。これを見ると同時にある古いなつかしい記憶が一時に火をつけたようによみがえって来た。木枯らしにまたたく街路の彩燈の錦《にしき》の中にさまざまの幻影が浮かびまた消えるような気がするのであった。
十四五歳のころであったかと思う。そのころ田舎《いなか》では珍しかった舶来の彩色石版の美しさにひどく心酔したものであった。われわれはそれを「油絵」と呼んでいたが、ほんとうの油絵というものはもちろんまだ見た事がなかったのである。この版画の油絵はたしかに一つの天啓、未知の世界から使者とし
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