かったので、まず何よりもその点が自分の好奇的な注意をひいた。まず鴨居《かもい》からつるした障子や木戸の模型がおもしろかった。次におもしろいと思ったのは、舞台面の仮想的の床《ゆか》がずっと高くなり、天井がずっと低くなって天地が圧縮され、従って縮小された道具とその前に動く人形との尺度の比例がちょうど適当な比例になっているために、人形のほうが現実性を帯びるとともに人形使いのほうがかえって非現実的になってくるということである。そのため人形のほうが人間になり、人間のほうが道具になっているのである。
見ない前にはさだめて目ざわりになるだろうと予期していた人形使いの存在が、はじめて見たときからいっこう邪魔に感ぜられなかったのは全くこの尺度の関係からくる錯覚のおかげらしい。黒子《くろこ》を着た助手などはほとんどただぼやけた陰影ぐらいにしか見えないのである。
酒屋の段は、こんな事を感心しているうちにすんでしまった。次には松王丸《まつおうまる》の首実検である。最初に登場する寺子屋の寺子らははなはだ無邪気でグロテスクなお化けたちであるが、この悲劇への序曲として後にきたるべきもののコントラストとしての存在
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