》にしてうたた寝をする。敵車が近寄るのでフィンが呼びさますと、「もう少し夢のつづきを見せてくれればよかったのに」と言ってその夢の話をして聞かせる。高い高い梯子《はしご》が立ってその上に天の戸が開けていた、王がそれを登りつめて最後の段に達した時に起こされたのだと言う。フィンは、その夢が王の思うほどよい夢ではない、眠りの不足のせいでなければそれは王の身の上にかかる事だと言った。
 王は黄金を飾った兜《かぶと》をきて、白地に金の十字をあらわした盾《たて》と投《な》げ槍《やり》とを持ち、腰にはネーテと名づける剣を帯び、身には堅固な鎖帷子《くさりかたびら》を着けていた。
 美しい天気であったのが、戦《いくさ》が始まると空と太陽が赤くなって、戦の終わるころには夜のように暗くなったと伝えられている。天文学者の計算によるとその日に日食はなかったはずだという事である。
 戦いは王に不利であった。……王はトーレ・フンドに切りつけたが、魔法の上着は切れなかった。そしてトーレの着たとなかいの皮からぱっと塵《ちり》が飛び散った。王は将軍のビオルン(熊《くま》)に「鋼鉄のかみつけないこの犬(フンド)はお前が仕止め
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