すればよい。それで問題はないのである。
ただ問題になるのはこの昇降機というもののメンタルテストの前に人間が二色に区別されることである。
何事でも人の寄る所へは押し寄せて行って群集を押し分けて先を争わないと気の済まない人と、そういう所はなるべく避けて少々の便宜は犠牲にしても人をわずらわさず人にわずらわされない自由の境地を愛する人とがある。この甲型の人の目から見ると乙型の人間は消極的|退嬰的《たいえいてき》な利己主義者に見える。しかし乙はその自由のためにかえって甲の先をくぐって積極的に進出する事もあるし、自分の自由を尊重すると同時に人の自由を尊重するという意味では利他的である。反対に乙型の人間から見れば甲型の人々は積極的なようではあるが、また無用な勢力の浪費者であり、人の迷惑を顧みない我利我利亡者《がりがりもうじゃ》のように見える。しかし甲はまたある場合に臨んで利害を打算せず自他の区別を立てないためにたのもしくあたたかい人間味の持ち主であることもありうるであろう。それはとにかくこの二つの型が満員昇降機のテストによってふるい分けられるように見えるところに興味がある。
それとはまた別のこ
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