障子の落書
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)妹と姪《めい》とが
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)明り取りの窓|硝子《ガラス》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)赤※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《あかさび》が
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平一は今朝妹と姪《めい》とが国へ帰るのを新橋まで見送って後、なんだか重荷を下ろしたような心持になって上野行の電車に乗っているのである。腰掛の一番後ろの片隅に寄りかかって入口の脇のガラス窓に肱をもたせ、外套の襟の中に埋るようになって茫然と往来を眺めながら、考えるともなくこの間中の出来事を思い出している。
無病息災を売物のようにしていた妹婿の吉田が思いがけない重患に罹って病院にはいる。妹はかよわい身一つで病人の看護もせねばならず世話のやける姪をかかえて家内の用もせねばならず、見兼ねるような窮境を郷里に報じてやっても近親の者等は案外冷淡で、手紙ではいろいろ体《てい》の好い事を云って来ても誰一人上京
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