[#「急に」に傍点]弛緩《しかん》する際に起こるものと言っていい。そうして子細に考えてみると緊張に次ぐ弛緩の後にその余波のような次第に消え行く弛張《しちょう》の交錯が伴なうように思われる。しかし弛緩がきわめて徐々に来る場合はどうもそうでないようである。
惰性をもったものがその正常の位置から引き退けられて、離たれた時に、これをその正常の位置に引きもどさんとする力が働けば振動の起こるというのは物質界にはきわめて普通な現象である。そして多くの場合においてその惰性は恒同であり、弾力は変位《ディスプレースメント》に正比例するから運動の方程式は簡単である。しかしこの類型を神経の作用にまでも持って行こうとすると非常な困難がある。かりにあるもの[#「もの」に傍点]の変位がプラスであれば緊張、マイナスであれば弛緩の状態を表わすとしたところで、その「もの」がなんだかわからなければその質量に相当するものも、弾力に相当するものもわかりようはない。従ってこれが数学的の取り扱いを許されるまでにはあまりに大きな空隙《くうげき》がある。
それにもかかわらず笑いの現象を生理的また心理的に考える時にこの力学の類型《ア
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