みれたねずみ色の団塊を一生懸命でなめころがしていた。それはほとんど生きているとは思われない海鼠《なまこ》のような団塊であったが、時々見かけに似合わぬ甲高《かんだか》いうぶ声をあげて鳴いていた。
三毛は全く途方にくれているように見えた。赤子の首筋をくわえて庭のほうへ行こうとしているかと思うと、途中で地上におろしてまたなめころがしている。とうとうその土にまみれた、気味悪くぬれよごれたものをくわえて私たちの居間に持ち込んで来た。そして私の座ぶとんの上へおろして、その上で人間ならば産婆のすべき初生児の操作法を行なおうとするのである。私は急いで例の柳行李のふたを持って来て母子《おやこ》をその中に安置したが、ちょっとの間もそこにはいてくれないで、すぐにまた座敷じゅうを引きずり歩くのであった。
当惑した私は裏の物置きへその行李を持ち込んで行って、そこに母子を閉じ込めてしまった、残酷なような気もしたが、家じゅうの畳をよごされるのは私には堪え難い不愉快であった。
物置きの戸をはげしく引っかく音がすると思っていると、突然高い無双窓に三毛の姿が現われた。子猫《こねこ》をくわえたままに突っ立ち上がって窓
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