子猫
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)猫《ねこ》と

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|子猫《こねこ》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)たま[#「たま」に傍点]」

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ポロ/\/\と
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 これまでかつて猫《ねこ》というもののいた事のない私の家庭に、去年の夏はじめ偶然の機会から急に二匹の猫がはいって来て、それが私の家族の日常生活の上にかなりに鮮明な存在の影を映しはじめた。それは単に小さな子供らの愛撫《あいぶ》もしくは玩弄《がんろう》の目的物ができたというばかりでなく、私自身の内部生活にもなんらかのかすかな光のようなものを投げ込んだように思われた。
 このような小動物の性情にすでに現われている個性の分化がまず私を驚かせた。物を言わない獣類と人間との間に起こりうる情緒の反応の機微なのに再び驚かされた。そうしていつのまにかこの二匹の猫は私の目の前に立派に人格化されて、私の家族の一部としての存在を認められるようになってしまった
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