あった。この鵺だけが雌で、他の三匹はいずれも男性であった。
 生長するにつれて四匹の個性の相違が目について来た。太郎はおっとりして愛嬌《あいきょう》があって、それでやっぱり男らしかった。次郎もやはり坊ちゃんらしい点は太郎に似ていたが、なんとなく少し無骨で鈍なところがあった。赤は顔つきからして神経的な狐《きつね》のようなところがあったが、実際|臆病《おくびょう》かあるいは用心深くて、子供らしいところが少なかった。おさるは雌だけにどこか雌らしいところがあって、つかまりでもするとけたたましい悲鳴をあげて人を驚かした。
 玉をつれて来て子猫《こねこ》の群れへ入れると、赤と次郎はひどくおびえて背を丸く立てて固くしゃちこばったが、太郎とおさるはじきに慣れて平気でいた。玉のほうは相変わらずきわめて冷淡な伯父《おじ》さんで、めんどうくさがってすぐにどこかへ逃げて行ってしまった。
 四匹の子猫に対する四人の子供の感情にもやはりいろいろの差別があった。これはどうする事もできない自然の理法であろう。愛憎はよくないと言って愛憎のない世界がもしあったらそれはどんなにさびしいものかもわからない。
 子猫はそれぞれ
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