っかかえられて逃げようとしてもがきながら鳴いているところを見たりすると、なおさらそういうディスイリュージョンを感じるのであった。
夏の末ごろになって三毛は二度目の産をした。今度も偶然な吻合《コインシデンス》で、ちょうど妻が子供を連れて出かけるところであったが、三毛の様子がどうも変であったから少し外出を見合わして看護させた。納戸《なんど》のすみの薄暗い所へいつかの行李《こうり》を置いてその中に寝かせ、そしてそろそろ腹をなでてやるとはげしく咽喉《のど》を鳴らして喜んだそうである、そしてまもなく安々と四匹の子猫を分娩《ぶんべん》した。
人間のこしらえてやった寝床ではどうしても安心ができないと見えて、母猫《ははねこ》はいつのまにか納戸《なんど》の高い棚《たな》の奥に四匹をくわえ込んだ。子供らはいくら止めても聞かないで、高い踏み台を持ち出してそれをのぞきに行くのであった。私はなんとはなしにチェホフの小品にある子猫と子供の話を思い浮かべて、あまりきびしくそれをとがめる気にもなれなかった。
子猫《こねこ》の目のあきかかるころになってから、時々棚の上からおろして畳の上をはい回らせた。そういう時は
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