」というものの欠けている猫の世界は(N−1)元《ディメンジョン》のものと見られない事もない。
ちび[#「ちび」に傍点]は大きくなるにつれてかわいくなって行った。彼は三毛にも玉にもない長いしっぽをもっていると同時に、また三毛にも玉にもない性情のある一面を備えていた。たとえば三毛が昔かたぎの若い母親で、玉が田舎出《いなかで》の書生だとすれば、ちびには都会の山の手の坊《ぼっ》ちゃんのようなところがあった。どこか才はじけたような、しかしそれがためのいやみのない愛くるしさがあった。
小さな背を立てて、長いしっぽをへの字に曲げて、よく養母の三毛にけんかをいどんだが、三毛のほうでは母親らしくいいかげんにあやしていた。あまりうるさくなると相手になってかなり手荒く子猫の首をしめつけてころがしておいて逃げ出す事もあった。しかしそんな場合に口ぎたなくののしらないだけでも人間の母親のある階級のものよりははるかに感じがよかった。また子猫のほうでもどんなにひどくされてもいじけたり、すねたりしない点がわれわれの子供よりもずっと立派なように思われた。
もう一人立《ひとりだ》ちができるようになって、ちびは親戚《し
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