山中常盤双紙
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)岩佐又兵衛《いわさまたべえ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)母|常盤《ときわ》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年七月『セルパン』)
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 岩佐又兵衛《いわさまたべえ》作「山中常盤双紙《やまなかときわぞうし》」というものが展覧されているのを一見した。そのとき気付いたことを左に覚書にしておく。
 奥州にいる牛若丸に逢いたくなった母|常盤《ときわ》が侍女を一人つれて東へ下る。途中の宿で盗賊の群に襲われ、着物を剥がれた上に刺殺される、そのあとへ母をたずねて上京の途上にある牛若が偶然泊り合わせ、亡霊の告げによってその死を知る。そうして復讐《ふくしゅう》を計画し、詭計《きけい》によって賊をおびき寄せておいて皆殺しにする。後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄り懇《ねんご》ろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。
 絵巻物というものは現代の映画の先祖と見ることが出来る。これについては前に
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