は何であったにせよ、それと全く同じことを同じ三人がいついかなる場所で話し合ってもこの場合と同じように笑えるかどうか。どうもそうとは限らないであろうと思われた。この場合にこの人たちをこんなにたわいなく笑わせているのは談話の内容よりもむしろこれらの人の内的外的な環境条件ではないかという気がした。
午前中忙しく働く。それが正午のベルだか笛だかで解放され向こう一時間の自由を保証されて食堂へかけ込む。腹が相当に減っている。まさに眼前に現われんとするごちそうへの期待が意識の底層に軽く動揺している。こういう瞬間が最もたわいのない軽口とそれに対する爆笑を誘発するに適当なものではないか。とにかく、これも未来の生理学的心理学者の研究題目の一つにはなりそうだと思われた。
そのうちうなぎどんぶりが三人の前に運ばれて食事が始まると同時に今までの間欠的爆笑がぴたりと止まってしまった。食事をしながらも低声で談話は進行していたが、今までとちがって話が急に何か知らないがまじめな軌道へはいり込んだかのように見えた。
食事のあとでりんごか何か食っていたようであったが、とにかく三人のムードが、食前とはすっかり一変して、
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