雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)竹《たけ》の台《だい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年八月『文学』)
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)パチ/\/\
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一
今年の春の花の頃に一日用があって上野の山内へ出かけて行った。用をすました帰りにぶらぶら竹《たけ》の台《だい》を歩きながら全く予期しなかったお花見をした。花を見ながらふと気の付いたことは、若いときから上野の花を何度見たかしれない訳であるが、本当に桜の花を見て楽しむ意味での花見をすることが出来るようになったのはほんの近年のことらしい、ということである。それ以前には花を見るつもりで行っても花よりは花を見に来ている人間が気になって仕方がなかった。人にこだわりながら花見をして帰ると頭が疲れてがっかりしたものである。家族連れで出かけるとその上に家族にこだわるので疲れ方が一層はげしかった。それだのに、どうしたことか、近頃
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