気がする。物理学の方面だけで見ると一体にドイツ学派の仕事は単色で英国派の仕事には色彩の陽炎《かげろう》とでもいったものを伴ったものが多いような気がするが、それは唯そんな気がするだけで具体的の説明は六《むつ》かしい。

         三

 人間の個性の差別が実に些細なことにまで現われるという一つの実例をついこの頃見付け出した。ある研究所の廊下に所員の姓名を記した木の札が掛け並べてある。片側は墨で片側は朱で書いてあるのを、出勤したときは黒字の方を出し、帰るときは裏返して朱字の方を出しておくのである。粗末な白木の札であるから新入りでない人の札はみんな手垢で薄黒く汚れている。ところが、人によっては姓名の第一番の文字のところだけに真黒に指の跡を印している人があるかと思うと、また二番目の字を汚している人もある。そうかと思うとまた下の二字を一様に汚して上の二字は綺麗に保存しているのもある。一方ではまたちっともそうした汚点をつけていない人もある。こうした区別が何を意味するかはそう簡単な問題ではないであろう。しかし、ことによるとこの姓名札の汚し方の同じ型に属する人には自ずから共通な素質があるかもし
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