して見ていた。打ち上げられた円筒は、迅速に旋転しながら昇って行ったが、開いたのを見ると、それは夜の花火によくあるような、傘形にあるいはしだれ柳のように空に天蓋を拡げるのであった。これについて一つ不審に思った事は、あれがどうしていつでも傘のように垂直線のまわりに対称的《シンメトリカル》に拡がるかという事である。なんでもない事のように思っていたが、考えてみると、これはそう簡単な問題ではなさそうである。あの円筒形がその筒の軸と直角な軸の周囲に廻転しながら昇るという事と関係があるらしいとは思うが、本当の事は鍵屋《かぎや》の職人にでもよく聞いてみた上でなければ判断が出来ない訳である。昔始めてこの花火を発明した人は偶然かもしれないが、やっぱり、少しはえらい人だったろうという気がした。
 いちばん大きな筒の順番はなかなか廻って来なかった。かれこれ半時間の余も見ていたが、いっこうに此方《こっち》へは手を付けない。自分の周囲で見ている連中にもやはりそれが気になるらしい事を云い合っているのがあった。私は自分が子供の時に九段上の広場で見た、手拭を撚《よ》ってこしらえた蛇《へび》を地上において、それが今に本当の蛇になると云って、その周囲に円を描いて歩きながら、笛を吹いて往来の暇人を釣っていた妙な男の事を思い出した。そしてその昔の心持と今のとどこか似通ったものを捜《さぐ》りあてて、思わず微笑したのであった。
 しかしとうとう、そのいちばん大きな筒が装填される時が来た。「今度は大きいぞ大きいぞ」と云う声が、群衆の中で、そこからもここからも起った。
 かなり大きな音と共に飛び出した弾は、風の音を立てて昇って行って、突然開いた。
 何が出るかと思って、緊張している、大勢の頭上の空中に、一団の大きな黄黒色のボアのような煙の団塊が一つ出来た。そしてただそれだけであった。煙は次第次第に乱れて拡散して、やがてただ一抹《いちまつ》の薄い煙になってやがて消えてしまった。
 花火船の艫《とも》にしゃがんでいた印半纏《しるしばんてん》の老人は、そこに立ててあった、赤地に白く鍵屋と染め出した旗を抜いて、頭の上でぐるぐると大きく振り廻した。もうおしまいという合図らしい。
 船首の技手は筒の掃除をする。若い親方はプログラムを畳む。見物は思い思いに散って行った。散った跡の河岸に誰かが焚《た》きすてた焚火の灰がわずかに燻《
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