雑感
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)齎《もたら》し得る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和三年十一月『理科教育』)
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 子供の時代から現在までに自分等の受けた科学教育というものの全体を引くるめて追想してみた時に、そのうちの如何なるものが現在の自分等の中に最も多く生き残って最も強く活きて働いているかと考えてみると、それは教科書や講義のノートの内容そのものよりも、むしろそれを教わった先生方から鼓吹された「科学魂」といったようなものであるかと思われる。
 ある先生達からは自然の探究に対する情熱を吹き込まれた。ある先生方からは研究に対する根気と忍耐と誠実とを授けられた。熱と根気さえあれば白痴でない限り誰でもいくらかの貢献を科学の世界に齎《もたら》し得るものであるという確信を、先生や先輩に授けられたことが一番尊い賜物であるように思われる。
 科学の知識はそれを求める熱さえあれば必ずしも講義は聞かなくても書物からも得られる。頭が良くなくても根気さえあれば人が一日に一時間ずつ費やして会得《えとく》
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