札幌まで
寺田寅彦
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)北上川《きたかみがわ》沿岸
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)荒涼|落莫《らくばく》たる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)赤※[#「魚+覃」、第3水準1−94−50]《あかえい》の
−−
九月二十九日。二時半上野発。九時四十三分仙台着。一泊。翌朝七時八分青森行に乗る。
仙台以北は始めての旅だから、例により陸地測量部二十万分の一の地図を拡げて車窓から沿路の山水の詳細な見学をする。北上川《きたかみがわ》沿岸の平野には稲が一面に実って、もう刈入れるばかりになっているように見える。昨夜仙台の新聞で欠食児童何百という表題の記事を見て来たばかりの眼には、この目前見渡す限りの稲の秋は甚だそぐわない嘘のような眺めであった。豊葦原《とよあしはら》の瑞穂《みずほ》の国の瑞穂の波の中にいて、それでなかなか容易には米が食われないのである。どこかで何かが間違っている証拠である。しかしどこで何がどう間
次へ
全16ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング