違っているかがなかなか容易に分らない問題であろう。
北上川の蛇行水路《メアンダー》の右岸の平野に低湿の沼沢地が一面に分布しているのは不思議である。河流が完成して後に一体の地盤が沈降したのではないかと疑われる。これは地形学者の説を聞いてみなければ分らない。
平泉《ひらいずみ》の旧跡はなるほど景勝の地である。都市というものの発達するに恰好《かっこう》な条件を具えていて、しかもそれが極めて小規模な地形であるのは面白いと思われた。鎌倉やまたこの平泉などのこうした地形を見ると、昔の日本の人口の少なかった程度が推測されるような気がするのである。昔のこれらの都市の面積と今の東京の面積との比が昔の日本の人口と今の人口との比に近いものを与えはしないかという想像が起る。
雨上りのせいもあろうが、樹木の緑の色がいかにも落着いた、重厚な、しかも美しい暗緑色をしている。低くてなだらかな山々が広く長く根を張っている姿も、やはりいかにも落着いたのんびりした感じを与える。それでいて山水遠近の配置が決して単調でなく、大様《おうよう》で少しもせせこましくない変化を豊富に示している。
岩手山《いわてさん》は予期以上
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