で、おしまいにはもう椎茸とも何とも分らぬものになって石ころ道の上を飛び飛び転がって行く。少し厭《あ》き気味になると父上に謡《うたい》をうたえの話をせよのとねだっているうちに日が西に傾く。しかし今度は朝のような工合に行かぬ。大体が西を向いて行くのであるから、椎茸は車の右脇へ頭を出したり左へ出したり。どうかすると自分の脚の上へ来るのでキャッ/\と大騒ぎをする。こんな坊チャマを膝へ乗せた父上も大概な事ではなかったらしいが、椎茸もトンダ目に会ったものだ。この椎茸少々|宜《よろ》しからぬ事があって途中から免職になったのはよかったが、その後任の爺さんがドーモ椎茸でなかったので坊チャン一通りの不平でない。これにはさすがの両親も持て余したと云う。[#地から1字上げ](明治三十三年九月『ホトトギス』)
底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店
1996(平成8)年12月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:川向直樹
2004年1月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正
前へ
次へ
全4ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング